パパLOVE
時には奈未ちゃん家のリムジンで遠出をしてキレイな夜景を見に行くこともあった。

帰ると夜遅くなることもあったけど、親に怒られることはなかった。

それは柊木さんがうちの親に電話して事情を説明してくれていたからだとあとになってわかった。

大好きな奈未ちゃんと一緒にいられることはスゴく嬉しかったけど、どうして奈未ちゃんは僕なんかを誘ってくれるのかがわからなかった。

奈未ちゃんには親に決められたフィアンセがいると聞いていた。

相手の人もお金持ちで、きっと奈未ちゃんに相応しい人に違いなかった。

本当なら僕なんかが一緒にいてはいけない人間のはずなのにこうして一緒にいる。

嬉しい反面、少しずつ罪悪感と言うか抵抗感が生まれていた。


今日は日曜日。

あの忌まわしい事件の日がやって来てしまった。

この日は香澄の様子がいつも以上におかしかった。

奈未ちゃんがやって来て挨拶をしても無視をしていたし、奈未ちゃんを睨みつけているのも何度か目にした。

しばらく別々に遊んでいると昼近くになったので、柊木さんが「お屋敷に戻りましょう」と奈未ちゃんに言っていたけど、奈未ちゃんは頑なに拒んでいた。

そんな中、香澄がどういう訳か奈未ちゃんを滑り台に誘って、先に階段を登ると笑顔で手招きをして奈未ちゃんを呼んでいた。

あんなに嫌っていた奈未ちゃんを少しは受け入れてくれているようで嬉しくなった。

と言うか、この時僕は香澄の笑顔に騙され油断してしまった。

奈未ちゃんが滑り台を登り終えた瞬間、香澄は奈未ちゃんを突き飛ばした。

そして突き飛ばされた奈未ちゃんはそのまま後ろ向きで階段に頭と体を何度も打ち付けながら転げ落ちていった。

そして地面に叩きつけられた奈未ちゃんの頭からは血が流れ出し、体はグッタリして全く動かなくなった。

僕は余りのショックで奈未ちゃんに近づくことも助けることも出来なかった。

ただ呆然と動かなくなった奈未ちゃんを遠くで見ていることしか出来なかった。

滑り台の上にいる香澄を見ると、何もなかったかのように平然と滑って下りてきた。

そのあとのことは余りよく憶えていない。

ただ、救急車がやって来て奈未ちゃんが救急隊員によって車の中に運び込まれ、サイレンを鳴らしながら去っていくのは微かだけど記憶にある。

「このことは誰にも言ってはいけません。あななたちは何もしていないし、何も見ていない。この公園ではあななたちは2人で遊んでいた。お嬢様とは遊んでいない。このことを守って下さい」

電話を終えた柊木さんに言われた言葉だった。

だから僕と香澄はその言葉通りに誰にも話さなかったし、話さなかったから何のお咎めもないでこの件は幕を閉じた。
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