パパLOVE
この事件のあと、奈未ちゃんが日曜日に公園に遊びに来ることはなくなった。

学校から帰って来たある日の夕方、自宅に電話がかかってきた。

電話の主は奈未ちゃんの執事の柊木さんだった。

『お嬢さまは、明日の飛行機でアメリカのニューヨークに立ちます。気が向いたらお見送りに来て頂けたらと思います』

『わかりました』

柊木さんは、あの事件のあと1度も顔を合わせていない僕と奈未ちゃんに気を遣って誘ってくれたに違いない。

奈未ちゃんがアメリカに行ってしまうことは、もちろんショックだった。

でも、奈未ちゃんは僕とは生きる世界が違うし、奈未ちゃんは世界で活躍できる人だから海外に行ってその才能を開花させた方が良いに決まっている。

嫌だけど、奈未ちゃんを応援したい。

でも、明日空港に見送りに行くのは迷っていた。

あの日、奈未ちゃんを滑り台から突き飛ばして大怪我をさせたのは僕の妹だ。

どんなに謝っても許してもらえないと思うし、どの面下げて会えばいいのかわからない。

だから行かない方がいいに決まってる…。


翌日。

今、僕は母さんの運転する車で空港に向かっていた。

数時間前までは迷っていたけど、母さんに背中を押してもらって踏み出すことが出来た。

今は、奈未ちゃんに会いたい。

会って謝りたいし、旅立ちを応援したい。

でも、ギリギリまで迷っていたから、搭乗時間に間に合わないかもしれない。

奈未ちゃんは10時40分発の飛行機に乗る。

30前の10時10分には搭乗を始めてしまうかもしれない。

「お母さん…もう間に合わないよ…」

「だっ……だい…じょ…うぶ。まっ…まに…あう…から…」

お母さんは運転しながら優しく微笑んでくれた。

そして僕の髪を撫でてくれた。

それから空港には10時15分に到着した。

僕はお母さんに手を引かれながら思い切り走った。

どうか間に合いますようにと心の中で神様に何度も何度もお願いをした。

その願いが叶ったのか、数10メートル先に奈未ちゃんと柊木さんの姿を見つけることが出来た。

「かいと……が…んば……って」

「行ってくるね」

それから僕は奈未ちゃんのもとに歩み寄り、少しだけ話が出来た。

「奈未ちゃんを僕はずっと待ってる。ずっと待ってるから…」

「あら、そう。もう時間だから行くわね。ごきげんよう」

奈未ちゃんは素っ気なくそう言っていたけど、目には溢れんばかりの涙が今にも流れ出してしまいそうだった。

でも、奈未ちゃんは必死に堪えて、いつも通りの凛とした格好良くて品のあるお嬢様でい続けた。

そして奈未ちゃんと柊さんはニューヨーク行きの飛行機に搭乗して日本をあとにした。
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