パパLOVE
「南風って言う喫茶店知ってるでしょ?」

「うっ‥うん」

「そこでお店の手伝いをしてるの。最近はオーナーと奥さんに頼まれてピアノを演奏してるんだ」

「すっ‥すごい…」

「スゴくないよ。いつも通りにピアノを弾いてるだけ。手伝いもピアノの演奏も好きだからやってる。嫌だったらとっくに辞めてる。そうだ、いずみんも南風でお手伝いしない?」

「わっ‥わた…しが?」

「いずみんは料理が得意だし真面目だから手伝ってくれると助かると思うんだけどな」

「かっ‥かんがえ…とく…ね」

考えとくと言ったいずみんの表情は困惑しているようで、ずっと俯いていた。

でも、こういう時のいずみんは本当は行きたいんだけど少し臆病で人見知りなところがあるから中々決断できない。

だから少しだけ背中を押してあげれば一歩前を踏み出せる。

「考えなくていいよ。明日、一緒に行こう」

「わっ‥わか…った」

と言った具合に、引っ張ってあげればついてくる。


翌日、戸惑い迷っているいずみんを無理矢理に「南風」に連れて行ってマスターとみゆきさんに紹介した。

「さっ‥さく…らい…いず…み…です」

「私はみゆきです。いずみちゃん、よろしくね。この人はマスターで私の旦那さん」

「よろしく」

「よっ‥よろし…く…おっ‥おねがい…しま…す」

「泉水ちゃんは料理が得意なんだって?」

いずみんのことは料理が好きで家ではお母さんの手伝いをしているとしか伝えていなかった。

吃音症のことは話していなかった。

それなのにオーナーもみゆきさんも顔色1つ変えることなく、いずみんと接していた。

いずみんの話すペースに自然と合わせていた。

こんなこと今まで殆んどなかったので驚いた。

この人たちって、スゴいな。

「とっ‥とくい…かどうか…は…」

「詩織ちゃんからいつもお母さんの料理の手伝いをしてるって聞いたよ。だから泉水ちゃんには厨房の手伝いをしてもらおうかな」

「わっ‥わかり…ました」

そうして、いずみんは「南風」の厨房担当になった。

その日からいずみんはオーナーからお店の料理の作り方を徹底して教わっていた。

あの強面のオーナーが意外にも教え方が優しく上手かった。

だからいずみんは楽しくお手伝いをすることが出来たし、次々に料理を憶えて作れるようになっていた。

数ヶ月後にはお店のメニューの殆んどは作れるようになっていた。
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