パパLOVE
「西島さん、今日もバイトお疲れさま」

「いらっしゃいませ」

「無理しないでね」

「起こし下さいましてありがとうございます。席にご案内致します」

「何でそんなに他人行儀なの?」

だって他人じゃん。

でも私は大人だからそんなことは言わない。

「こんばんは。部活はどうでしたか?」

「疲れたけど、楽しかった」

「そうですか。それは良かったですね。ご注文が決まりましたら、タブレットから注文して下さい」

私はそう言い残すと、三枝先輩にからまれないように、あえて離れて仕事を始めた。

しばらくした頃、先輩から「料理の提供手伝ってくれる」と言われたので、カウンターに入って行くと三枝先輩のテーブルの席の料理だとわかった。

何てタイミングが悪いんだろう。

嫌々だけど料理を持って三枝先輩の席まで持って行った。

「お待たせ致しました」

「ありがと。そう言えば、何で今日学校で僕を殴ったの?」

「何となく…」

流石にムカついて殴ったとは言えなかった。

「それに泣いてたみたいだったし」

「泣いてません。ビンタしたのは謝ります」

「別にいいよ。嫌なことでもあったんでしょ?」

「ないです」

「僕でよければ何でも聞くから言って欲しい」

「いいです。聞いてくれなくても」

どうせ、他の女子にもそんなセリフを言ってるんでしょ。

優しいフリして女子の心を掴もうとしてるのは見え見えなのよ。

でも、私はそんな言葉には騙されないし、そんな簡単な女じゃないのよ。

「心配なんだ」

「心配してもらうような関係じゃないですし」

「そんなことない。僕らは…僕らは…」

「何ですか?」

「いや、何でもない。それよりこれなんだけど…」

三枝先輩は白いメモ用紙を私に渡してきた。

よく見ると、そこには電話番号とメールアドレスが書かれれていた。

普通に気持ち悪いと思った。

「こういうの止めて下さい」

「ダメかな?」

「駄目です」

「電話してこなくてもいいから受け取って欲しいんだ。何かあった時のために」

その表情は女たらしの顔ではなく、真剣そのものだった。

その表情に打ち負かされた訳ではないけど、殴ってしまった後ろめたさのようなものも加わって断りきれなかった。

渋々メモを受け取ると、「連絡はしませんから」と念を押した。
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