パパLOVE
「彰が舞台俳優とはねえ、信じられんよ」

「そんなに意外かな?」

「意外だよ。中学から一緒だったけど、勉強にしか興味がないと思ってたからな」

「いい大学を出で、良い企業に就職できれば良いと思ってた」

「そんなお前さんが夢を見つけて突き進んでいる。親友として誇りに思うよ」

「大げさだな」

僕と話しているのは飯田くん。

中学1年で知り合ってからずっと仲が良くて、友達の余りいない僕にとっては数少ない親友の1人だ。

同じ高校に入ってからは1年のときと3年で同じクラスになった。

まあ、クラスが違っていても飯田くんは休み時間になる度に僕のクラスに遊びに来ては僕とお喋りをしていたけど。

そんな飯田くんは部活は柔道部に所属しており1年の時から試合や大きな大会にも出場して県でも五本の指に入るくらいの成績を収めていた。

身長178センチ体重85キロという恵まれた体型と努力を惜しまない真面目さは彼をとことん強くしていった。

あと少しで3年最後の全国大会が迫ってきている。

飯田くんは今年の優勝候補の一角と言われている。
 

僕が舞台俳優の卵だと言うことはクラスの連中には黙っていた。

舞台俳優と言っても、出演させてもらっている舞台はセリフが殆んどないチョイ役ばかりだったからだ。

知られるなら、もう少し名が知られ有名になってからの方が良かった。

だから飯田くんには、他の人には話さないようには言っておいた。

それなのに飯田くんは僕の席に来ては舞台のことを普通に話してくる。

飯田くんに悪気がないのはわかっていたし、たぶん僕の言葉など彼の頭から抜け落ちてしまっているのだろう。

周りには特に誰もいないからいいのだけど。

1人を除いては…。

隣の席の櫻井さん。

櫻井さんはトイレや移動教室、体育の授業以外は殆んど自分の席に座っている。

たぶん聞かれてはいないと思うけど。

聞かれてはいないと思うけど、櫻井さんには特に知られたくなかった。

理由は彼女は僕の初恋の人だから。

櫻井さんは高校3年の5月に僕らのA高校に転校してきて同じクラスになった。

席は偶然にも僕の隣になった。

転校の理由は家庭の事情だと噂程度に聞いたことがある。

初めて彼女を見た時に恋に落ちた。

うしろに縛った長い黒髪と、色白で美人だけど幼さが残ったかわいい顔に僕は目を奪われた。

ただ1つ欠点があるとするなら、彼女は話すのが極端に得意ではなかった。

転校初日の挨拶の時も上手く言葉が出てこなくて、結局先生が紹介していたほどだ。
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