パパLOVE
それにクラスの連中が話しかけても言葉を返すことが出来ずにいるところを何度も目にした。

何かを言おうとしてるのは遠目で見ている僕にもわかったけど、中々言葉が返ってこない櫻井さんを根気強く待ってあげられるクラスメイトは殆んどいなかった。

結果、櫻井さんが転校してきてから数日が経つと彼女に話しかける人間は誰もいなくなっていた。

でも、僕と飯田くんは違った。

彼女に話しかけ、彼女の言葉を待った。

決して言葉を遮るようなことはしなかった。

彼女の何を言おうとしているのか知りたかったし、彼女の声をもっと聞きたかった。

飯田くんはどう思っているのかわからないけど、彼も僕と同じように彼女に接していた。

彼女が転校してくる数日前、先生から彼女のことについて色々と聞かされていた。

彼女は吃音症という障害を持っていると。

言葉が円滑に話せない障がいで、話を始めるときに最初の一音が詰まったり、同じ音を繰り返したりする言語障がいの1つだと教えられた。

だから、彼女のことをよろしくとお願いされた。

何で他の女子ではなく僕なのかと先生に尋ねると、誰にでも親切で優しいし、障がい者だと知っても偏見を持たずに接してくれるからだと言っていた。

だからこそ敢えて僕の隣の席にすると。

そうして彼女の転校前日、僕の隣の席が空けられ彼女の席が用意された。

先生に頼られるのは悪い気はしないし、出来るならその期待に応えたいとは思った。

彼女の障がいを知ったから何か力になってあげたいという気持ちもどこかにあった。

でもそれ以上に僕の心が、僕の彼女を好きな気持ちがより一層そういう気持ちにさせた。

だから誰よりも彼女をいつも見ていたし、誰よりも彼女のことがわかるようになっていった。

彼女を知る度に僕の心は大きくなっていった。

好きで好きで仕方なくなっていた。

何かしてあげたくて気持ちばかりが空回りしているのが自分でもわかった。

そして思い悩んで出した答えが手紙だった。

僕は【N】というペンネームをで彼女に毎日のように手紙を書いて机の中に入れておいた。

【N】は西島のNだ。

内容は特に大したことを書いた訳ではなかった。
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