龍神様のお菓子
「一茶さん!無事着替え完了しました!昴君同様、今日から新人として宜しくお願いします!」
最初の頃の緊張はどこへ消えたのか、何か吹っ切れた夢香は元気よく一茶に挨拶をする。
「元気でよろしい。じゃあ、君達にはこれから二手に分かれてもらう。松木さんはこれから僕と一緒に接客についてもらう。小鳥遊君は悪いんだけど、龍青の方を手伝ってやって欲しいんだ」
「え…」
明らかに嫌そうな表情をした昴に、一茶は苦笑する。
「嫌なのは重々承知しているんだけどね、朝から調理場に篭りっぱなしの龍青はあぁ見えて結構疲れてるんだ。負けず嫌いだから死んでもそんな事は言わないけどね。だから、出来る範囲で手伝ってやってくれないかな?」
「それ、俺よりこいつの方が適任なんじゃ…」
昴は夢香を指差す。
「確かに松木さんが調理場を手伝ってくれた方が龍青のモチベーションは上がると思うけど、いかんせん材料が結構重たいからね、運ぶのにかなりの力が必要なんだ」
「でも、その桜って人は一人で材料調達行ってるんすよね?」
「桜を松木さんと一緒にしちゃダメだよ。あいつは人間じゃ…、じゃなくて鍛えられ方が違うからね」
今一瞬、人間じゃないって聞こえた気がするが敢えて聞かなかった事にする。
「頼むよ、小鳥遊君。今日は夕方から大口のお客様が来る予定なんだ。それまでにできるだけ菓子を揃えておきたいんだ」
一茶の必死の説得に昴は仕方なく「わかりました…」と返事をすると、調理場へと姿を消した。
夢香はそんな昴を見送ると、早速接客のやり方について教わる。今度はちゃんと試食の場所から在庫の取り出し方、季節商品の一覧まで隅から隅までしっかりと教わった。途中、一人の女性が入店してきたが、生憎お客様では無かった。
彼女は面接の日に夢香を席へと案内してくれた高橋さんである。高橋さんは夢香同様に普通のアルバイトさんであるらしい。
「め、面接の際は色々とありがとうございました!」
夢香は緊張した面持ちで礼を述べると、「あら、あの時の、宜しくね」と優しく微笑んだ。
どうやら、アルバイトで雇っているのはこの高橋さんと夢香達だけらしい。
「このお店ってもっと女の子沢山いませんでした?」
夢香は以前見たSNSの写真を思い出す。確かあれは自分が高校生くらいの時であるが、もっと若くてイケイケの女の子が沢山の和菓子を紹介している写真がこれでもかと投稿されていた様な気がする。
「あぁ、彼女達は随分と前にクビになったんだ」
一茶はレジ点検をしながら答える。
「え、どうしてですか?」
確かに自分とは違って派手目な感じの子達だったが、みんな普通の学生さんだったに違いない。
「いや、問題というか…、いざこざというか…」
一茶は答えづらそうに前髪を弄る。
「みーんな龍青に惚れて、取り合いになったから全員クビにしたんだよ」
突然、入口の方からした声に夢香は振り向く、そこには大量の紙袋を抱えた桜が「よ、また会えて嬉しいよ」と笑って立っていた。
「さ、桜さん!おかえりなさい」
夢香は慌てて桜に近づくと、沢山あるうちの紙袋を一つ持つ。
「桜、随分と早かったね。調理場で龍青と新人君がお待ちだよ」
一茶は桜から紙袋を全部取り上げると、軽々とそれを運んでいく。
「いやぁー、流石私。一時間で京都の街全部回ってやったからね」
「きょ、京都まで行かれてたんですか!?」
「うん。空をびゅーんと、ひとっ飛びしてね」
「…?、飛行機でも使われたんですか?」
疑問符を並べる夢香に桜は「まー、そういうこと」といって肩を叩く。想像以上に強い力で叩かれたことに夢香は黙って肩を抑える。
「それより、さっきの話本当ですか?みんな龍青さんに惚れたって」
「あぁ、本当だよ。修羅場になって大変だったんだよ」
桜は髪を耳にかけながら、イートインコーナーに勢いよく腰掛ける。
「あいつ、ああ見えて顔だけはいいでしょ?それに加えて和菓子作ってる所なんて見ちゃったもんだから、みんな舞い上がっちゃって、それはもうアイドルみたいな扱いされててめっちゃウケたけどね」
「和菓子作ってるところですか…」
確かに顔がいいのは認めるが、性格的にだいぶ難がある人だ。例え、イケメンが和菓子を作っていてもそれだけで素敵とはならないのでは?と夢香は心の中で思う。
「ありゃ?もしかして、龍青が菓子作りしてる所見た事ないの?」
桜はニヤニヤと夢香の顔を覗き込む。
「え、まぁ。私調理場担当じゃないですし…」
「じゃあ、それ持ってってよ。ついでにあいつが菓子作りしてるところ見学しておいで、きっと喜ぶからさ」
そう言って桜は夢香の背中を軽く叩いた。
最初の頃の緊張はどこへ消えたのか、何か吹っ切れた夢香は元気よく一茶に挨拶をする。
「元気でよろしい。じゃあ、君達にはこれから二手に分かれてもらう。松木さんはこれから僕と一緒に接客についてもらう。小鳥遊君は悪いんだけど、龍青の方を手伝ってやって欲しいんだ」
「え…」
明らかに嫌そうな表情をした昴に、一茶は苦笑する。
「嫌なのは重々承知しているんだけどね、朝から調理場に篭りっぱなしの龍青はあぁ見えて結構疲れてるんだ。負けず嫌いだから死んでもそんな事は言わないけどね。だから、出来る範囲で手伝ってやってくれないかな?」
「それ、俺よりこいつの方が適任なんじゃ…」
昴は夢香を指差す。
「確かに松木さんが調理場を手伝ってくれた方が龍青のモチベーションは上がると思うけど、いかんせん材料が結構重たいからね、運ぶのにかなりの力が必要なんだ」
「でも、その桜って人は一人で材料調達行ってるんすよね?」
「桜を松木さんと一緒にしちゃダメだよ。あいつは人間じゃ…、じゃなくて鍛えられ方が違うからね」
今一瞬、人間じゃないって聞こえた気がするが敢えて聞かなかった事にする。
「頼むよ、小鳥遊君。今日は夕方から大口のお客様が来る予定なんだ。それまでにできるだけ菓子を揃えておきたいんだ」
一茶の必死の説得に昴は仕方なく「わかりました…」と返事をすると、調理場へと姿を消した。
夢香はそんな昴を見送ると、早速接客のやり方について教わる。今度はちゃんと試食の場所から在庫の取り出し方、季節商品の一覧まで隅から隅までしっかりと教わった。途中、一人の女性が入店してきたが、生憎お客様では無かった。
彼女は面接の日に夢香を席へと案内してくれた高橋さんである。高橋さんは夢香同様に普通のアルバイトさんであるらしい。
「め、面接の際は色々とありがとうございました!」
夢香は緊張した面持ちで礼を述べると、「あら、あの時の、宜しくね」と優しく微笑んだ。
どうやら、アルバイトで雇っているのはこの高橋さんと夢香達だけらしい。
「このお店ってもっと女の子沢山いませんでした?」
夢香は以前見たSNSの写真を思い出す。確かあれは自分が高校生くらいの時であるが、もっと若くてイケイケの女の子が沢山の和菓子を紹介している写真がこれでもかと投稿されていた様な気がする。
「あぁ、彼女達は随分と前にクビになったんだ」
一茶はレジ点検をしながら答える。
「え、どうしてですか?」
確かに自分とは違って派手目な感じの子達だったが、みんな普通の学生さんだったに違いない。
「いや、問題というか…、いざこざというか…」
一茶は答えづらそうに前髪を弄る。
「みーんな龍青に惚れて、取り合いになったから全員クビにしたんだよ」
突然、入口の方からした声に夢香は振り向く、そこには大量の紙袋を抱えた桜が「よ、また会えて嬉しいよ」と笑って立っていた。
「さ、桜さん!おかえりなさい」
夢香は慌てて桜に近づくと、沢山あるうちの紙袋を一つ持つ。
「桜、随分と早かったね。調理場で龍青と新人君がお待ちだよ」
一茶は桜から紙袋を全部取り上げると、軽々とそれを運んでいく。
「いやぁー、流石私。一時間で京都の街全部回ってやったからね」
「きょ、京都まで行かれてたんですか!?」
「うん。空をびゅーんと、ひとっ飛びしてね」
「…?、飛行機でも使われたんですか?」
疑問符を並べる夢香に桜は「まー、そういうこと」といって肩を叩く。想像以上に強い力で叩かれたことに夢香は黙って肩を抑える。
「それより、さっきの話本当ですか?みんな龍青さんに惚れたって」
「あぁ、本当だよ。修羅場になって大変だったんだよ」
桜は髪を耳にかけながら、イートインコーナーに勢いよく腰掛ける。
「あいつ、ああ見えて顔だけはいいでしょ?それに加えて和菓子作ってる所なんて見ちゃったもんだから、みんな舞い上がっちゃって、それはもうアイドルみたいな扱いされててめっちゃウケたけどね」
「和菓子作ってるところですか…」
確かに顔がいいのは認めるが、性格的にだいぶ難がある人だ。例え、イケメンが和菓子を作っていてもそれだけで素敵とはならないのでは?と夢香は心の中で思う。
「ありゃ?もしかして、龍青が菓子作りしてる所見た事ないの?」
桜はニヤニヤと夢香の顔を覗き込む。
「え、まぁ。私調理場担当じゃないですし…」
「じゃあ、それ持ってってよ。ついでにあいつが菓子作りしてるところ見学しておいで、きっと喜ぶからさ」
そう言って桜は夢香の背中を軽く叩いた。