龍神様のお菓子
「ほんとに…、止むんでしょうね…」
「ちょっと待ってろ」
そう言って、龍青は指をパチンと鳴らす。次の瞬間、今まで大雨だったことが嘘の様に空から陽の光が差し込み始めた。
「…嘘」
夢香は驚いた様に、空を見上げる。
「だからいったろ?神様だって」
龍青は悪戯っ子のように笑うと、持っていた大きな傘を閉じる。よく見ると買い物タグが着いたままである。
「か、神様、神様って本当の神様に怒られますよ?」
「怒られねぇよ。今んとこ俺二番目に偉いから」
「何で二番目なんですか…」
「一番は雅なんだよ。残念ながら俺もあいつだけには太刀打ちできねぇ」
龍青の言葉に夢香は顔を顰める。
「そ、そんなまどろっこしい言い方しなくても、はっきり婚約者ですって言えばいいじゃないですか!」
「何でそうなるんだよ…」
龍青は困った様に頭を掻く。
「お前さ、何か勘違いしてる?」
目の前で怒りを露わにする夢香に龍青は苦笑する。
「だ、だって雅さんは龍青さんの婚約者だって…!」
そこまで話すと、突然夢香の視界が暗くなった。
「嫉妬したの?」
龍青の声が耳元から聞こえる。自分が抱きしめられている事に気がついた夢香は一気に耳を赤く染めた。
「な!…」
「嫉妬してくれたんだよな?…」
少し掠れた声に、夢香は大人しく頷く。
「だ、だって、あんな綺麗な婚約者いるなら、なんで私に優しくするのかなって…」
夢香はボゾボソと龍青の胸元で呟く。
「雅は俺の婚約者なんかじゃねぇ。あれはあの女が勝手に決めたことだよ」
「勝手に?」
「あいつは人の生死を司る神なんだ、もしあいつのいい分に背けば今頃お前はここに居ないよ」
「そんな!…」
とても真実とは言い難い話に夢香は反論しようと顔をあげた。しかし、龍青の真剣な眼差しに思わず口を紡ぐむ。
「お前は遠い昔に、俺の住む大穴に生贄として放り込まれたんだ」
「い、生贄ですか…」
「昔はよく雨が降らないと神様に生贄を捧げていたんだよ。夢はちょうどそれに選ばれたんだ」
なんとも信じ難い事実に夢香は身震いする。
「そ、それで?」
「お前はずっと泣いていてね、あまりにも煩いものだから少し意地悪してやろうと思ったんだ」
今何気に最低な事をサラッといいましたけど…。
「そ、その意地悪って何ですか?」
「料理を作らせたのさ、多分出来ないだろうと踏んでね」
やっぱり最低だー。
「それで…、私どうなったんですか?」
「見事にとんでもない代物を作り出してね、最初はお前を食ってやろうかと思ったんだけど…」
龍青はそこまで行って、夢香の頬に手を添える。
「お前の泣き顔が目に焼き付いて離れなくてね…」
「え…」
「それで、仕方なくその不味い代物を口に放り込んで、料理番として生かした。もちろん暫くは料理の特訓。その時協力してくれたのが、一茶と桜」
「だから私の事…」
知っていたのかー。
「それから俺とお前はずっと一緒に居たんだよ。ずっと、ずっと、お前が消えてしまうまで…」
龍青は何処か悲しそうに「覚えてないだろうけどね」と付け加えた。夢香はそんな龍青を見つめる。何処までも深い灰色の瞳はまるで宝石の様に綺麗だ。
「…それ本当ですか?」
「嘘でこんな事言うかよ…」
珍しく真剣に答える龍青に夢香は戸惑う。
「それなら、どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか?」
夢香は龍青の綺麗な手に自分の手を重ねて尋ねた。
「んなこといって信じてくれた?俺が神様でお前の事前世から知ってましたなんて…信じてくれたのかよ…」
今にも泣き出しそうな龍青の表情に夢香は息を呑む、こんなの心臓に悪すぎる。
「………どうして話してくれたの?」
「わかんねぇのかよ…」
「言葉でいってくれないと…」
空からは再び大粒の雨が降り注ぐ。
「お前の事が好きだから」
美しい、龍の神様はそう言うと夢香の唇に口付けた。
「ちょっと待ってろ」
そう言って、龍青は指をパチンと鳴らす。次の瞬間、今まで大雨だったことが嘘の様に空から陽の光が差し込み始めた。
「…嘘」
夢香は驚いた様に、空を見上げる。
「だからいったろ?神様だって」
龍青は悪戯っ子のように笑うと、持っていた大きな傘を閉じる。よく見ると買い物タグが着いたままである。
「か、神様、神様って本当の神様に怒られますよ?」
「怒られねぇよ。今んとこ俺二番目に偉いから」
「何で二番目なんですか…」
「一番は雅なんだよ。残念ながら俺もあいつだけには太刀打ちできねぇ」
龍青の言葉に夢香は顔を顰める。
「そ、そんなまどろっこしい言い方しなくても、はっきり婚約者ですって言えばいいじゃないですか!」
「何でそうなるんだよ…」
龍青は困った様に頭を掻く。
「お前さ、何か勘違いしてる?」
目の前で怒りを露わにする夢香に龍青は苦笑する。
「だ、だって雅さんは龍青さんの婚約者だって…!」
そこまで話すと、突然夢香の視界が暗くなった。
「嫉妬したの?」
龍青の声が耳元から聞こえる。自分が抱きしめられている事に気がついた夢香は一気に耳を赤く染めた。
「な!…」
「嫉妬してくれたんだよな?…」
少し掠れた声に、夢香は大人しく頷く。
「だ、だって、あんな綺麗な婚約者いるなら、なんで私に優しくするのかなって…」
夢香はボゾボソと龍青の胸元で呟く。
「雅は俺の婚約者なんかじゃねぇ。あれはあの女が勝手に決めたことだよ」
「勝手に?」
「あいつは人の生死を司る神なんだ、もしあいつのいい分に背けば今頃お前はここに居ないよ」
「そんな!…」
とても真実とは言い難い話に夢香は反論しようと顔をあげた。しかし、龍青の真剣な眼差しに思わず口を紡ぐむ。
「お前は遠い昔に、俺の住む大穴に生贄として放り込まれたんだ」
「い、生贄ですか…」
「昔はよく雨が降らないと神様に生贄を捧げていたんだよ。夢はちょうどそれに選ばれたんだ」
なんとも信じ難い事実に夢香は身震いする。
「そ、それで?」
「お前はずっと泣いていてね、あまりにも煩いものだから少し意地悪してやろうと思ったんだ」
今何気に最低な事をサラッといいましたけど…。
「そ、その意地悪って何ですか?」
「料理を作らせたのさ、多分出来ないだろうと踏んでね」
やっぱり最低だー。
「それで…、私どうなったんですか?」
「見事にとんでもない代物を作り出してね、最初はお前を食ってやろうかと思ったんだけど…」
龍青はそこまで行って、夢香の頬に手を添える。
「お前の泣き顔が目に焼き付いて離れなくてね…」
「え…」
「それで、仕方なくその不味い代物を口に放り込んで、料理番として生かした。もちろん暫くは料理の特訓。その時協力してくれたのが、一茶と桜」
「だから私の事…」
知っていたのかー。
「それから俺とお前はずっと一緒に居たんだよ。ずっと、ずっと、お前が消えてしまうまで…」
龍青は何処か悲しそうに「覚えてないだろうけどね」と付け加えた。夢香はそんな龍青を見つめる。何処までも深い灰色の瞳はまるで宝石の様に綺麗だ。
「…それ本当ですか?」
「嘘でこんな事言うかよ…」
珍しく真剣に答える龍青に夢香は戸惑う。
「それなら、どうしてもっと早く教えてくれなかったんですか?」
夢香は龍青の綺麗な手に自分の手を重ねて尋ねた。
「んなこといって信じてくれた?俺が神様でお前の事前世から知ってましたなんて…信じてくれたのかよ…」
今にも泣き出しそうな龍青の表情に夢香は息を呑む、こんなの心臓に悪すぎる。
「………どうして話してくれたの?」
「わかんねぇのかよ…」
「言葉でいってくれないと…」
空からは再び大粒の雨が降り注ぐ。
「お前の事が好きだから」
美しい、龍の神様はそう言うと夢香の唇に口付けた。