助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
『や……やだぁっ、置いて行かないで――――ッ!』

 懸命に叫ぶも、願いを聞き届けてくれる者などいるはずもない。
 しばらく必死で手足を動かしたが、時間が無駄に過ぎるばかり。気力も体力も使い果たし、震えながらメルローゼは夜を待った。周囲ががさがさ鳴る度に身が竦み、獣の息遣いに気がおかしくなりそうになる。
 やがて日も暮れ、周りが闇の帳に包まれると、茂みの中にいくつもの光る目玉が浮かぶ。

(神様、神様……! どうかお助け下さい……!)

 その内獣の臭いと荒い息遣いが近付いて、メルローゼはがちがちと、激しく歯を揺らした。
 彼女はぎゅっと目を閉じ、ただただ助けを祈る。だが……こんな深い森の中で、どんな人間が助けに来てくれるというのか。

『グルゥゥゥゥゥ……』
(あ、ぁ……)

 低い唸り声と共に迫る獣たちの気配に、恐怖したメルローゼの気が遠くなりかけた時。
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