助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 毛布を数枚重ねて敷き、荷台に乗って来る彼らを待ち受けた。少女を寝かせ、容態を確かめる。

「そちらの彼は意識ははっきりしているようですし、ラルドリス様……水に生姜と蜂蜜をひとさじずつ混ぜたものをゆっくり飲ませて、後はゆっくり休ませてあげてください」
「生姜と、蜂蜜……これとこれか? ほら、ちょっとずつ飲め」
「ありがとうございます……。妹を、お願いします。僕たち、親に捨てられて……」 

 意外と甲斐甲斐しく、ラルドリスは少年のために動いている。その姿に安心し、メルは少女の診断に専念した。熱が高く、体は冷えているが……下痢、嘔吐などはしていないようで、外傷などもない。単なる栄養不足で体力が保てなくなっている可能性が高いと判断する。
 メルは特製の解熱剤と栄養剤を少女の口にわずかずつ含ませると、一緒に横になってその体を抱き締めた。火を炊けない車内では、他に体を温めてやる方法がないと思ったからだ。
 目を閉じた少女の口が微かに動き、うわごとを呟く。

「…………おかあさん、いかないで」

 痩せた頬を、すっと雫が伝う。せめて今だけでもと、メルは彼女の頭を胸に抱きそっと囁きかける。
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