助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「ずっと、傍にいるからね」

 シーベルが馬車をややゆったり目に動かしだす。小一時間ほど経つと、薬が効いたのか少女の呼吸は少しずつ穏やかになってきた。
 それを見る少年の目は、安堵よりも、悲しみに満たされているように見える。

「……僕たちみたいな者なんて、誰にも必要とされない。生まれてこない方が……よかったんでしょうか……」

 疲れ切った様子の少年が、ラルドリスの方に身体を崩した。ぼろぼろの姿で寝てしまった彼に、ラルドリスは跳ね除けたりはせず肩を貸してやる。

「そんなことはない、お前たちは立派だ。それに比べて俺は……」

 そんな呟きが続いた気がしたが……腕の中の小さな温もりにメルの意識も少しずつ溶け出し、彼がどんな顔をしているのか確かめるまで保つことはできなかった。
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