助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 言いかけてメルは振り返った。
 外から騒々しい物音が近付いてくる。交換所の入り口の扉がバタンと乱暴に開け放たれた。

「失礼! 我々はベルナール公の指示の元、徴税に参った者たちである! この度公は苦渋の選択ながら、ゆくゆくは王座に就くザハール第一王子の支援のため、さらなる税負担を科すと示された! 蔵にある分では所定の金額に達さぬと判断したため、村内にあるすべての換金物を接収させてもらう!」
「そ、そんな!」「ふざけないでくれ、俺らを殺す気か!」

 村人から次々に悲鳴が上がるが、徴税官はそれに取り合わず、兵士に指示する。

「これは既に下された命令なのだ! 抵抗する者の命の保証はせぬ!」
「異論があるなら前に出よ! 逆らえばどうなるか、身をもって教えてやる!」

 縋りつく村人たちを突き飛ばし、兵士たちが商品を無理やり回収してゆく。
 小麦を売る女性も抗議しようとしたようだが、剣の抜き身を目の前にちらつかせられると、悔しそうに拳を握り、沈黙した。
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