助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「いやはや、泊まるどころではなくなってしまいましたな……」

 がらんどうになった商品交換所はどうも寒々しい。村人も家に帰れば多少の蓄えはあるのだろうが、冬場はただでさえ育つ作物が少ないのに、大変な負担となっただろう。
 ――なんとかできないだろうか。
 思案し、鞄を探っていたメルの指にあるものが触れる。お守り代わりに身に着けていた、大事なもの……。しかし、決断すると、彼女はそれを取り出した。
 灰色の粉が入った、手のひらに収まるくらいのガラス瓶。

(使わせてもらうね)

 断りを入れ、メルは目頭を押さえている小麦売りの女性に言った。

「この村の畑に連れて行ってもらえませんか? 私、実はこんな格好ですが、魔女なんです」
「魔女…………? んで畑? 今は冬だよ、そんなところに連れていったところで、どうしてくれるっていうんだい」

 不審そうにしながらも、他に縋れる藁もないのだろう……女性はメルを村人が共同で管理している畑に連れて行った。村人たちも、幾人かが興味と警戒半分の様相で着いてくる。
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