助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 冬場の土は冷たくぱさつき、それを触ったラルドリスが、手を払うと寒そうにこすり合わせる。

「こんな枯れた農地でなにができるって言うんだ?」

 メルは、鞄からいくつかの瓶を取り出した。そこには、様々な作物の種が入っている。

「皆さんは、これらの種を、畑にまいて来てもらえますか? その間に私はまじないの準備をしますから」
「村長殿、こんな姿をしていますが、実は彼女は高名な魔女で、素晴らしい魔法の使い手なのですよ。ここはひとつ信じて手伝ってやってくれませんか?」
「む……う。しかしなぁ」

 今さっきあんな仕打ちを受けたばかりだし、余所者に村のことに口を出されるのをよしとしないのか、村長は言葉を濁す。しかしそれを、小麦売りの女性は説得する。

「いいじゃないか。あんだけやられたらもう冬も越せないよ。こんなあたしらを騙したところでこれ以上奪えるものなんてないんだし、それにあっちの坊やが徴税官に文句を付けようとしたのも見てたしね。悪い人たちじゃないよ、多分」
「……ならば、やってみるがいい」
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