助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
『おやおや……。森が騒いでおると思えば、やはりお客さんかね。お前たちお止め。代わりに食べ物をあげるから』

 場を優しく包む穏やかな声が、獣たちをなだめるように響いた。
 不思議なことに獣たちは動きを止め、目を見開いてメルローゼの真後ろを凝視している。

 どさりと、声のした方から一抱えほどの袋が放り投げられ……獣たちは匂いを嗅ぐとひと吼えし、それを咥えて次々と茂みの中に姿を消してゆく。
 いまだ浅く息を吐きながら……危機が去ったのか半信半疑のメルローゼが体をねじり、上を見上げると……。

 そこでは、月明りに照らされた皺の深い老婆の顔が、優しそうに笑っていた。

『ほう、こりゃずいぶんいいとこの娘っ子だの。どうしたんだい? 性質の悪いのに攫われでもしたのかい……お名前は?』

 メルローゼはそこで不思議な現象を見た。老婆が手に持つ杖の先でちょんちょんと突いただけで、手足を縛っていた縄がひとりでに解けたのだ。彼女の身体は瞬く間に自由になった。
 両目からぽろぽろと涙が零れ――思わず、メルローゼは目の前の老婆に抱き着くとむせび泣く。
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