助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 村長も、どうにもできなかった責任を感じているのか、それ以上はなにも言わなかった。
村人に手伝うよう指示し、メルの行動を見守る。
 万遍なく彼らの手から作物の種が撒かれ、その間にメルは灰の小瓶を握ると、まじないを唱え始めた。

「『かつて多くの命を支えた、雄々しき大樹でありしものよ……。今一度この中に御魂を宿らせ、枯れ果てたこの大地に祝福を。豊穣の息吹となり、新たな命を芽吹かせ、巡る命の糧となりたもう――』」

 厳かにゆっくりと紡がれる言葉に応じ、少しずつ瓶の内の灰が浮き上がり、薄っすらとした雲のように広がった。
 それは畑を覆い、生命の輝きを光らせながら、ゆっくりと土の上に降り注ぐ。やがて……。

「あっ――!」「す、すごいぞ!!」

 村人たちが叫ぶ。するすると、早送りするように土から噴き出した芽が、瞬く間に畑を緑へと染めてゆく。それはやがて、様々な作物をふんだんに実らせ始めた。

「ふう、はぁ……。皆さん、これで少しばかりの助けにはなったでしょうか。魔法の効き目がある内に、早く作物を――」
「おっと……」
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