助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「わかりません。手放す理由が欲しかったのかもしれません。少し、私には重たかったですし」

 人だけではなく、多くの命を助け、あの広い森を護っていた偉大な祖母。メルにとっては、彼女の背中はとても遠い。
 ラルドリスはかける言葉に迷うような素振りをし、軽く地面を蹴った。その内メルの前に一抱えの籠を持った小麦売りの女性が興奮した様子でやってくる。

「――あんたたち、本当にありがとうね! よかったら今日はうちに泊まって行かないかい? 飯づくりの腕には自信があるんだ! こないだ猟師からもらった、とっておきの羊肉をごちそうするよ!」

 そこで村長と何やら交渉していたシーベルが戻ってきて、ふたりに頷きかける。

「それは助かりますね。丁度私たちも、今晩の宿に困っていたところでして。ここはありがたくお言葉に甘えるとしましょうか。ね、メル殿?」
「……はい」
「持ち上げるぞ」

 力の抜けた顔で頷くメルを見て、ラルドリスは急に横抱きにした。
< 112 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop