助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「はあ、男の人に……ですか」

 思ってもいない願いに、メルも虚を突かれた。

「だってそうしたら、もっとたくさん仕事ができるじゃない。見下されずに済むし、身なりにいちいち気を遣わなくたって済むかも知れないし。まあ、お連れさんみたいな綺麗な男もいるけどさ」

 女の身では、どうしても体格や筋力、就ける仕事にも限りがある。冗談で濁したが、早く大きくなって母を助けたいのだと、彼女の目はそう言っていた。

「そろそろいこっか。晩御飯、期待していいよ。たくさん食べて、力を付けて、この先の旅に備えていってね」

 力強く手を引かれ、メルはハーシアに連れられてゆく。その時感じた。
 沈んだ顔は見せないが、彼女は彼女で精一杯無理をしているのだ。そう思うと、その頼りがいのある背中が少し悲しかった。
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