助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね


 一行に使っていい部屋などを説明すると、べネアはすぐに夕食の準備に取り掛かっていった。手伝おうと申し出たメルだが、それはきっちりと固辞され、今三人はハーシアと共に居間でくつろいでいる。

「ねー、シーベルお兄さん、なにか面白いお話聞かせてよ」
「いいですよ。では、伝説の大樹の上に造られた国のお姫様が、初めて大地に降り立った時の冒険譚でも話しましょうか……」
「おー、それって王子様とかが出てくるやつ?」

 暖炉に火を付けるのを手伝ったことで気が合ったのか、シーベルがハーシアの相手をしている間、メルとラルドリスは座席で各々ぼんやりとしていた。

(普通のお家って、こういう感じなんだ……)

 たしかにべネアの言う通り、ところどころにハーシアが置いたままにした本や雑貨、たたまれずに置かれた服などが目に付き、雑然としている。
 メルは貴族の家で暮らしていた小さな頃と、祖母に拾われてから森暮らしをしていたころの記憶しかない。だから、ほぼ初めての他人の家という空間が落ち着かず、なんだか妙に背筋がそわそわしてしまう。
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