助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
『あぁっ……あぁうぅーーっ! わたし……メル! メルぅ……! 家族に、捨てられて……!』
彼女がそこで老婆にちゃんとした名前を伝えられなかったのは、そこから自分の素性を辿られることを恐れたためだ。実の姉も使用人もメルローゼを見捨てたあの家にはもう、二度と戻れない。
老婆は大泣きするメルローゼの様子を見ても殊更に追求はせず、彼女を負ぶると優しく声を掛けてくれた。
「可哀想にね……もう何も心配することは無いよ。もし帰るところが無いんだったら、おばばがここでの暮らし方を教えてあげようね、メルや……」
そうして……名も知らぬ老婆の温かい背に揺られ、メルとなったメルローゼはいつしか眠ってしまった。
――それから祖母の姓を借りて名を改め、もう十年。小さかった自分が大人になる程の歳月が経った。
感慨と共に物憂げな息が口を突く。いつの間にか匙を止めていたその手に、柔らかい毛皮が触れている。追憶から戻った彼女を、チタがつぶらな黒い瞳で見上げていた。
彼女がそこで老婆にちゃんとした名前を伝えられなかったのは、そこから自分の素性を辿られることを恐れたためだ。実の姉も使用人もメルローゼを見捨てたあの家にはもう、二度と戻れない。
老婆は大泣きするメルローゼの様子を見ても殊更に追求はせず、彼女を負ぶると優しく声を掛けてくれた。
「可哀想にね……もう何も心配することは無いよ。もし帰るところが無いんだったら、おばばがここでの暮らし方を教えてあげようね、メルや……」
そうして……名も知らぬ老婆の温かい背に揺られ、メルとなったメルローゼはいつしか眠ってしまった。
――それから祖母の姓を借りて名を改め、もう十年。小さかった自分が大人になる程の歳月が経った。
感慨と共に物憂げな息が口を突く。いつの間にか匙を止めていたその手に、柔らかい毛皮が触れている。追憶から戻った彼女を、チタがつぶらな黒い瞳で見上げていた。