助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「これが、普通の民の暮らしというものか。っと……なんでもない」

 素性がバレては敵わないと思ったのか、ラルドリスは口を閉ざすが、メルも想いは同じだ。彼の目を見て小さく頷いた。
 ラルドリスは照れたように視線を外し、円い木のテーブルに頬杖を突く。

「どうにも慣れないが……でも、不思議だな。住んでいる人間の愛着がそこかしこに感じられて、落ち着くような気もする。ずいぶんと生活の音が近いんだな……」

 ラルドリスは暖炉の薪や楽しそうに話すハーシアたち、そして居間の奥、厨房があるであろう方向に物珍しそうに目線を向けた。
 彼にとっての毎日はどんなものだったのだろう。メルは想像してみる。
 朝から使用人に起こされて着換え、食事から勉学から、すべて世話係に決められたスケジュールを過ごし、後は部屋で誰かが呼びに来るまで部屋でぼんやりと過ごしていたのだろうか。

 自由が無いのではなく、知らない……。それはひどく受け身で、息苦しい生活のように思える。身分のせいで色々な制限を設けられたラルドリスはしかし、今までそれを普通のこととして受け入れてきたのだろうけど。
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