助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「知りたくなかったな……」
「え?」

 ラルドリスはぼそりと呟くと、顔を隠すようにテーブルに突っ伏した。

「美味そうな匂いがする。腹が減った」
「ああ……そうですね」

 香草やガーリックなどの食欲をそそる香りがふわふわと鼻腔をくすぐる中、ラルドリスはべネアが料理を運び始めるまで、ずっとなにかを堪えるように背中をまるめていた。



 夜が明け、メルは昨日のうちに聞いておいた井戸に赴き、滑車で組んだ冷たい水で顔を洗った。
 昨晩は湯浴みするとまでは行かなかったが、温かい湯をたっぷり使って体を拭くことができた。久々に男ふたりと別の場所で休めた彼女は深呼吸をし、朝の静かな空気を一人で堪能する。
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