助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 小さな村の役場が王国に支援を求めるには、もっと大きな街役場を介する必要がある。さして裕福でないべネアたちのためにわざわざ手間をかけることを、役人の誰かが惜しんだのではないか――そんなことを、ラルドリスは言った。
 いくら法で定められていようとも、それを扱うのは人間で、法律という網だけではすべての人を救うことはできないのだと。
「なんといったらいいのか……。とても……残念です」
「そうだな。先の兄妹たちだって、受け入れてくれる者がいれば、孤児になどならずに済んだろうに。せっかく立派な法があろうと、これでは宝の持ち腐れだ。世の中は想像よりも上手く回っておらんのだな……」
「でも、どうしてそんなことを?」
「……シーベルも言っていたように、こうして生まれた以上、俺たちにはこの国をより栄えさせ、民の幸福を保障してやる義務がある。自分より弱き者から搾取して私腹を肥やしたり、怠惰を貪るなど、恥だ」

 彼にとっては他人事のはずのべネアたちの事情を思いやり、そう言い切ったラルドリスにメルは感心する。
 都合によりしばらく城を離れていたとはいえ、彼はいわば本物の純粋培養の王族だ。大勢の人に傅かれ、普通の人がどんな生活をしているのかなど知らずに生きてきたに違いない。
 にもかかわらず彼には、誰かを思いやろうという心がちゃんと育っている。それは彼を育てた人物――王妃や周りの人々の功績であるのだと思う。
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