助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 呼ばれたので立ち止まり、振り返ると……ハーシアはメルを振り向かせ、両の手を片方ずつ強く握った。そして目をじっと見る。

「あんたは、残った方がいいよ……。なんとなくだけど、その……まださ、苦しいとこから抜け出せてないような、そんな感じがするんだ」

 その言葉は言われたメルにもしっくりくるように感じた。彼女とは昨日会ったばかりで、話したり家事を手伝ったりでほんの少し交流しただけなのに……分かる人にはわかってしまうものなのだろう。

 大切な人との別れが、ちゃんと出来ていないこと。
 どうすれば、このすかすかした胸の中が埋まってくれるのか、メルには分からない。
 本人に分からないのだから、きっと他の誰にもどうしたらいいのかを教わることなどできまい。

「ずっと心のどこかがぼんやりしてない? メルちゃんの顔を見てると、心配になって来るんだ」

 そう言ったハーシアはベネアの方を伺うように見た。そして母親が頷くのを見ると、ぐっとメルを自分の方に引き寄せる。
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