助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「この村でしばらく暮らしなよ。そういうのは、誰かと一緒に過ごしてさ。少しずつ隙間を塞いでくれる思い出をかき集めていくしかないんだよ。代わりになる大事なもんなんて、そうそう見つかりゃしないもの。あたしには、お母さんが居てくれる。でも、メルちゃんには」
「――いいんです」

 その悲しみを湛えた瞳の奥に、胸の中のなにかを一瞬ぶちまけてしまいそうになって……メルはぐっとそれを呑み込んだ。
 
「その前に、やり遂げないといけないことがありますから。大切な思い出のために」

 メルの苦しみを知り、すべて受け入れてくれたあの人はもう、どこにもいない。
 けれど今はそれを見つめてはならないと、メルは弱々しくも笑顔で応える。
 彼らの行く末をきちんと見届ける――それが残された自分が、祖母の代わりにできることだから。

「そう……決めたことなんだね。それじゃあ、引き留められないや。ごめん、邪魔しちゃって」
「いいえ……ありがとう」
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