助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 途中で言葉遣いが妙になったような気がして、兵士はトルスという若い父親をじっと見た。どうも、彼はそわそわと落ち着きがない。

「お前、何だか様子がおかしくないか?」
「ど、どこがでしょう?」
「いや、具体的にはわからんが……」

 その兵士は威圧するように目をぎょろつかせるとトルスの周りを回り、微笑んでいた彼の顔にたちまち汗が浮かび出した。

「よく見ればお前、ずいぶん気品のある顔立ちをしておるな。そこいらの村人とは思えぬ。しかも、誰かに似ておるような……」

 トルスの視線がより忙しなく、左右上下を往復する。

「そそそそうでしょう! 確かに子供の頃、ここ最近生まれた中で一番の美男だと褒められたことがあったのだっ……いえ、あったのですが! わ、私くらいの者なんてどこにでもおりますとも。は、ははっは……」
「どれ、もっと良く見せてみろ」
「やめてくりゃさい!」

 またまたトルスの言葉が怪しくなり、兵士が胡乱な視線で彼の被っていた帽子を取りあげた。
< 136 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop