助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 家族が一斉に頭を下げ、まとめ役の兵士はにこやかに微笑むと、通りすがる子供の頭を撫でてやる。

「足を止めさせて悪かったな。数か月に一度の祭りだ。しっかり楽しんで来るといい」
「ヂュ?」
「ん?」

 そこで子供の口から妙な鳴き声が漏れたような気がして、兵士が首を傾げる。
 慌てた様子で妻が息子を抱え込み、愛想笑いを浮かべた。

「お、おほほほほ。この子ったら……ちゃんとお礼を言わないと! 失礼しました、む、息子は動物がなによりも好きでして、よく鳴き声を真似して遊んでおりますの。どうか、ご無礼をお許しくださいまし」 
「そうなのか……ま、構わんがな。では達者で。よし、次の者――!」

 へこへこ頭を下げながら、関の門を潜っていくトルス一家。
 どことなく妙な雰囲気の一行に検閲の兵士たちは引っ掛かりを覚えないでもなかったが、特に証拠もなく、そしてまだまだ後ろには順番待ちの列が控えている。
 結局彼らはその家族を見送ると、すぐさま次に取り掛かり始めた……。
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