助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね


 ……それから数時間後。
 一行は歩く内に人影もまばらになって来たのを確認すると、関向こうの街道から逸れ、通行人の死角となる岩陰に隠れた。
 そして、周りから人の気配が途絶えたのを確認すると、妻アニスがなにかのまじないを呟く。

 ――ぼふっ!

 すると全員の姿が大きな煙に包まれ、間の抜けたような音と共にそこへ別の姿の者たちが現れた。それはもちろん、ラルドリス一行である。
 全身小麦粉塗れになった彼らは一斉に、どさどさとその場にへたり込む。

「へくしっ……! いやぁ。なんとか無事に抜けられましたねぇ」
「はぁー……殿下ぁっ、もうちょっと自然にやって下さいよ! なにが、最近生まれた中で一番の美男ですか! この調子乗り! シーベル様があそこで気を聞かせなかったら、絶対突っ込まれて不味いことになってましたって!」
「仕方ないだろ! 芝居なんぞしたことがないんだっ。むしろあれ以上ぼろを出さなかったのを褒めてくれよ! お前こそ、最後兵士に引き留められそうになっただろっ……えほえほっ」
「あれは私のせいじゃありませんもの! も~……」
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