助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 詰め寄るメルにラルドリスは怒鳴り返しつつ、何度も大きな咳をした。
 強がりながらも大汗をかいている彼にため息をつき、メルは自分の服をはたいた後、ハンカチでその顔をそっと拭いてやる。
 ラルドリスはこそばゆそうにそれを受け入れ、言われずとも世話を焼いてしまった自分にシーベルが生暖かい視線を向けてきたので、メルはたちまち目付きをとんがらせた。

「シーベル様、なにかおかしなことでも?」
「いやぁ、ずいぶん仲良くなられたことで、微笑ましいなと。侍女姿もすっかり板についてきましたし……おおっとそれよりこれ、ご苦労様でした。メル殿の作戦がばっちりはまりましたね」

 メルの怒りのオーラがぐあっと増したのを見てシーベルはとっとと話題を切り替える。
 彼が示したようにそれぞれの身体から、役目を負えた粉が風に流され、光の粒子となって消えていく。
 関を突破するに当たって三人と一匹に施した変装。それに役立ったのはもちろん、メルの変化の魔法だ。それにはべネアからもらった小麦粉が役に立った。

 若夫婦役を自分とラルドリスが務め、トラブルがあった時の誤魔化し役に知恵の回るシーベル、そして人数を誤魔化すためにリスのチタまでも頭数に入れた。
< 141 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop