助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
『――祭りはいいものだよ。皆がこの日ために力を合わせ、一生懸命準備をして、この日を迎えられたことを神様や周りの人に笑顔で感謝するのだから。ごらん、皆楽しそうに笑っているだろう?』

 小さかったメルの目にはそんな祝祭の雰囲気が、まるで違う世界のようにきらきらと輝いて見えていた。美味しいものや玩具をたくさん買って貰い、疲れたら祖母に負ぶって貰ってお話しながら帰る……夢みたいに楽しい一日がそこにあった。それは本当に大切な記憶の一つとして、今も胸にしまってある……。

 ラルドリスが寂しげに言う。

「皆、幸せそうだな……。父が倒れてから、俺の周りの者は誰もあんな風に笑わなくなった。どこか皆張り詰めた硬い表情をして……胸が詰まるんだ。せっかく大勢の人がいるのに。そして俺には、それがなにをしたら変えられるのか、分からなかった」
「……そうですか」

 ずっと悩んでいたのだと、その顔には書いてあった。ふたつの派閥に別れた微妙な情勢の城内で、国王の配下たちは自分の立ち位置に最新の注意を払っていたことだろう。それは、兄のザハールといがみ合わされた彼も同様だったに違いない。もし、彼が笑えと命じたならば、配下はそう取り繕ったはずだ。だがそれは、上辺だけのもの。彼の求めているものではない。
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