助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「なぜとは問うまいな……。ああ、よく知っている。ティーラ・マーティル……マーティル侯爵家の一人娘、そして……兄ザハールの、婚約者だ」
「――――!!」

 メルは強く心を保とうとした。しかし、

「メル!?」

 ぐらっ――と視界が揺れた。胸の奥で、心臓を杭で貫くような鋭い痛みが苛み。
 彼女が繋ぎ止めようとした意識をバラバラに砕いていく。

『――メル、あなたが邪魔なのよ。消えてちょうだい?』

 あの時最後に見た姉の優しげな笑みが、鮮明に浮かんだ。

「しっかりしろ、メル!」

 その場ではラルドリスの声が大きく響いていたが、メルはそれどころではなかった。
 されるがままに彼に抱えられ、激しい動悸が襲う胸を必死に抑えながら、か細い声で喘ぐのがやっとだったのだ。

(どうして……)
< 161 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop