助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね


 ようやく朝焼けが周囲を照らし、続く祝祭を楽しむ街人たちもまだ、寝静まっている頃。
 早朝に、ある宿の厩で動く二つの人影があった。

(まさか、こんな別れになるとはな……)
「荷物の準備はこれでよし、と」

そこでは、ラルドリスとシーベルが、静かに宿を発つ準備を進めていた。
そして、その傍らにメルの姿はない。

「本当によかったのですか? ラルドリス様」
「さあな……。だが、ここまでくれば王都は目と鼻の先だ、なにより、時間がない」

 ラルドリスは宿の建物の二階にある、メルが臥せる部屋を仰ぐ。
 祭りの最中、路地裏で倒れた後、彼女は意識を失くし昏々と眠り続けた。
 信じがたいことだが、おそらくメルと、あの時名前を告げたティーラとの間になんらかの関わりがあったとしか考えられない。それも、彼女の心を大きく傷付けてしまうような何かが。

「ご心配なさらず。信用できる医者と宿のおかみにメル殿のことはしっかりと頼み込んでありますから」
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