助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「ああ……わかってる」

 気の利くシーベルがすぐに医者に手を回し、診断では一時的なショック症状で命に別状はないことが確認できている。
 目を覚ますまでついていてやりたいのは山々だ。だが、ラルドリスも病弱の母を助けに戻らなければならない。その目的を諦めてまで傍にいることを、当のメルも望むまい。

(せっかく、友となってくれる者に……信じられるやつに出会ったと思ったのに)

 どうやらここからは目立つ馬車は捨てるらしく、シーベルは馬屋でそれを処分し、馬自体も新しいものと換えてもらっていた。
 新たな旅の仲間に挨拶をし、鞍に荷物を括りつけつつ、ラルドリスは今までの旅路を回想する。

(だが、メルには……色々なことを教わった。なにより、あいつとの旅は楽しかった)

 思えば、あの小さな魔女には助けられてばかりだった。
 手傷を負ったラルドリスに彼女は適切な治療を施し、そして自らの危険も厭わず旅に同行して、一行の危機を何度も救ってくれたのだ。
 だけではなく……メルはラルドリスのことを本気で心配し、時には嫌われても仕方ないほど強く、叱ってくれた。初めて王子としてではなく、家族以外で自分自身を見てくれる人に出会えた……そんな気がした。それは彼に大きな希望を与えていた。
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