助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「ラルドリス様、準備は――ご覚悟は、よろしいですね?」
「……うむ、十分だ。俺はこれからザハールと相対し、奴と戦う。王位は絶対に渡さない。俺はこの国をもっとよい国にしたくなったからな。国民ひとりひとりが自分の希望を見据え、望んだ道を歩めるような国に」

 ――そしていつか……立派になって礼を言いに行く。だから、あの家に帰り、安らかに過ごせよ。
 ラルドリスは心の中でそう呟くと、鞍に跨りシーベルに頷きかける。

「行こうかシーベル。残りの道中とこれから、大いに頼らせてもらうがよろしく頼む」
「……そのお顔なら大丈夫そうですね。なれば私も自慢の小賢しさを存分に披露させていただきましょう。では、出発しますか」

 からからと笑い、シーベルが馬を動かし始めた。

「ありがとう、メル」

 ラルドリスはもう一度宿のメルの部屋を見ると、深い感謝を囁き、後に続く。
 彼が城を離れてから一年も経たないうちに……そしてフラーゲン邸からのほんの数日の旅を経て。
 その間に、彼の瞳の色はより深く、鮮やかな光を放つようになっていた。
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