助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 悲しいと思う気持ちは湧き上がってくるのに。
 まるで感情と体が切り離されてしまったかのように、涙すら出てくれない。ひとつひとつ、明かりのように灯る光が闇に萎んでいく。
 すべてが飲み込まれようとしている中で、メルは見つけた。

 ――あれは……?

 朱色。金と赤の混じったような……一粒の光を。
 それはとても遠くに見えた。けれどそれだけが、存在をはっきりと主張するようにメルの元へと届いた。深く刻まれた、鮮烈な赤光を放つ宝石のような記憶が、彼女の瞳をそこへ導いたのだ。

『――傍にいて俺を手伝ってくれないか。メル』

 耳に新しい言葉に強く意識が惹かれ、闇の中真っ直ぐこちらを見つめる青年の姿が浮かんでいる。
 そして、それだけではなく……。

(……おばあちゃん?)
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