助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 隣でうっすらと、温かい気配を感じた。
 それは、ぼんやりとした輪郭だけで、はっきりはしない幻のようなものだったけれど。
 なんとなくメルにはそれが祖母なのだと感じられた。
 それは手を持ち上げると、遠くに立つラルドリスの方を指差す。そして。

『行っておあげ。勇気を出して』

 そんな声が聞こえた気がした。

 ――うん。

 その言葉に背を押され、メルは不確かな闇の中一歩を踏み出す。居心地のいい虚無から……元の世界へと戻るために。
 本当はもっと、祖母と話をしたい。いや、話なんてできなくてもいいから、傍にいたい。
 けれど、こんな自分を求めてくれる人が、待っている。
 それに他ならぬ彼女がずっと教えてくれていたのだ。怖くても傷付いても、胸に抱いた想いを誰かに伝え、行動すること――自分を信じることの、大切さを。
< 169 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop