助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「あ、あんたねぇ……。ったく」

 そのただならない焦りようにおかみさんは渋い顔で部屋から出て行くと、一通の手紙と包みを持ってきた。

「ほら。あの兄さんがあんたが起きたら渡してくれってさ。こっちは飯。よくわかんないけど宿代ももらってるし、出たいんだったら勝手にしな」
「……ありがとう」

 メルはその手紙を確認すると、おかみさんが用意してくれたサンドイッチと一緒に鞄に突っ込んで、彼女に礼を言った。
 それには、ラルドリスたちが王都までに辿る道筋が詳細に書かれている。
 彼ももしかしたらと、メルが眠りから覚め、合流しようとする可能性を考えていてくれたのだ。

「それじゃ行ってきます! お世話になりました!」
「徒歩じゃ追いつけないよ! 馬屋は宿を出た通りの北側にあるから――!」

 玄関まで見送り出てありがたい忠告をくれたおかみさんだったが、移動手段はメルには必要ない。
 祖母から受け継いだ、とっておきの魔法があるのだから。
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