助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 宿を出ると、もう日は煌々と辺りを照らしており、とっくに昼は過ぎている。今から彼らの後を追っても王都までに追いつけるかどうか……。
 だが、今は後先考えず、心の望むままに動きたい。メルは近くにあった食料雑貨店(グロッサリー)に駆け込むと、パイプをふかした店番のおじさんに怒鳴った。

「おじいさん、そこのぴっかぴかのナスくださいっ!」「あん? ほらよ、一個銅貨一枚……って嬢ちゃん! おい待てこれ金貨だぞ! 釣りは!? 釣りよ、釣りー!!」 
「要らないですっ! 『……悍馬の霊よ――』!」

 メルはナスを引っ掴みおじさんに金貨を放り投げると、通りで人目もはばからずまじないを叫ぶ。

「わぁっ、一体なんだっ!?」
「いきなりデッケェ馬が!?」
「すみませ~ん、皆さんどいてっ!」

 大袈裟な煙の上に見事な黒馬がいきり立ち、周りの人やおじさんが腰を抜かした。
 それには目もくれず、メルは跨ると通りを走り、街を飛び出していく。
 向くは東。あの我儘王子をもう一度、絶対に捕まえてやるんだ……そんな気持ちでメルは一路、まだ陰も見えない王都への道のりを猛進した。
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