助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 それは、獣の骨でできた歪な十字架のようなものだった……。
 男が口上を読み上げ、それを勢いよく宙に放り投げた途端、噴き出した黒い煙が小山のような獣を形作ってゆく。

「ゴオオオオオォォォッ!」
「……あれはっ! あの時の……」

 空高く産声を発した黒い獅子のような獣に、ラルドリスが青ざめた。
 まさしくそれは、メルと出会う前彼を窮地に陥れた魔物そのものだったのだ。

「さあ者ども、ラルドリスを逃がさぬよう包囲を続けろ! うまくいけば手柄が転がり込んでくるかもしれんぞ!」

 小隊長は魔物とラルドリスを中心として、彼らを逃がさぬよう周りの兵士たちの配置を広げさせた。おこぼれに預かろうという兵士たちは、魔物に慄きながらも薄笑いを浮かべ、退路を遮る。

「……シーベル、なにか奴を倒せるような方法はあるか」
「いやはや、ここまでとは……」
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