助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 弱々しく返事したシーベルの右耳からは鮮血が滴っている。もしかしたら、爆発の余波で鼓膜でも傷つけたのかもしれない。

「い、今のうちに……先に囲いを突破してください。私は、後から……」
「馬鹿かお前、早く立て! 肩を貸す!」

 平衡感覚を一時的に失くしたのか、上手く立てないシーベルの腕を掴み、ラルドリスは強引に引っ張り上げた。

「ふざけるなよ! こんなところもしお前を失ったら、誰がこれからの厄介な政務を片付けてくれる! これから問題なんて山ほど出て来るんだっ……有能な臣下をこんなところで離脱させてたまるか!」
「……聞き分けの、ない人ですね」

 シーベルはへらへらと笑いつつ、ラルドリスの肩を借り足を引きずる。
 さすがに魔物も、あそこまで大規模な爆発が頭部の近くで起これば無事ではすむまい。
 兵士たちの大半も倒れている。今なら、逃げ切れる……。

(――まさか)
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