助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 ――そこで異様な気配を感じ、ラルドリスは思わずシーベルごと体を前に投げ出していた。
 その判断は正しかったようで……髪が風で揺らいだのに寒気を感じながらすぐに身を起こし、剣を構えながらも振り返ると、慄然とさせられる。

「く……そぉっ」

 あの魔物が立っていた。
頭部が半壊した状態でありながら、なんの痛痒も見せずに黒い獣は油断なくラルドリスたちを見下ろしている。先ほど頭の上の空気を薙いだのは、その太い前脚であったのだ。しかも、欠けた部分はゆっくりと蠢き再生を始めていた。

「馬鹿な……あれだけの爆発で」
「で、んか……はやく、行きなさい! 私が足止めします!」

 立ち上がったシーベルがラルドリスを強く後ろへ突き飛ばすと、剣を構え魔物に相対した。しかしその足はふらついており、とても戦えるようには見えない。

「シーベル、何を……」
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