助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 現国王ターロフを生んだ前王には、弟がいた。その人物は娘ジェナと、息子シーベルの二人の子を授かったが、ターロフが前王から王冠を受け継いだため、生涯玉座に付くことはなかった。その彼への配慮とし、ターロフは彼の娘であるジェナを、妃として迎えた――。    
 つまり、シーベルは、年は離れてこそいるものの現国王ターロフ王の従弟――王家の血を引いている。

 そして、なによりも……ラルドリスが生まれて以来シーベルは、ずっと兄の様に優しく、面倒を見てくれた。自己主張が激しいザハールとは反対に孤立気味で、軽んじられやすかったラルドリスが宮中で不自由しないよう、様々なことを取り計らってくれた。飄々として笑いを絶やさない彼の姿は、いつも頼もしく傍にあった。そんな、兄も同然の彼を、ここで見捨てるなど……。

「できるわけがあるかっ!」

 ラルドリスは葛藤を捨て走った――前へ。
 その時にはもう、魔物の再生は終わる。
 来るな、とシーベルの口が動き、丸太のような巨大な前脚が真上に振り被られる。
 それらがずいぶんゆっくりと感じられ、必死に伸ばす自分の手も、遅々として進まない。
 あらん限りの力を振り絞って足を動かす――。

(シーベル! 届いてくれっ……!)
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