助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 しかし……。
 無情な鉤爪は、それよりも早く……まるで死神の鎌の如く目の前を滑り落ちてゆく。

(誰か……っ!)
 
 時間も、力も、人脈も、何一つとして足らない。
 自分たち以外には誰もいないこの場だ。奇跡を願う以外にやれることはない――逃走し、命を繋ぐことしかできなかったあの時と同じ状況。
 では、ここまでの乗り越えてきた旅路に価値は無かったのか……。

(いいや……そんなはずはない!)

 そうではないはずと、否定する自分がいた。
 確かに自分にたいした力はない。でも、ここに来るまでに多くの人と関わり、その想いを知った。多くの人と繋がることができた。
 ならば……目に変わらなくとも、その願いを背負って動こうとする今の自分はもう、かつて何事からも目を背けていた日陰者の王子ではないはずだ。そして今ここにいなくても、支えてくれる大切な人もできた。
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