助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「と……どけぇっ!」

 ラルドリスは手に持っていた剣を振りかぶり、真っ直ぐに投げ放つ。
 そして瞬き一つで終わる瞬間……必死に声を張り上げて叫ぶのは、神や聖母の名前でも、なんでもなく。
 
「……メルぅっ!」

 ようやくできたたったひとりの友達。彼をここまで導いてくれた、誰よりも信のおける、小さな魔女の名。
 なにかが視界の端を掠める。
 影すら縮め、煌々とすべて照らす太陽の元で、こちらへ一直線に突っ込んで来るものがあった。

「『生命の基となりし大地よ……! 忌まわしきを貫く、破魔の槍となって飛べ――』!」

 それは勢いのまま、跨っていた黒馬から飛び降りると、割り込むように魔獣とシーベルの間の地面へ転がり込み、唱えた。
 目の前で、ここにないはずの真っ黒いローブがはためいている。

 ラルドリスの投げ放った剣は、空で彼女の放つ魔法の槍と合わさった。
< 186 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop