助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「グ……ウオォォ――ン」

 魔物が強く仰け反り、高い空を貫くような断末魔の咆哮が響く。
 糸を引くような寂しげな響きとともに、魔物の身体が靄となって、空気中に溶けてゆき。

 ――カロン……。

儚い音を立て……ぽっきりと折れた獣骨の十字架が、最後に地面に残された。

「……かわいそうに」

 きっとあの獣も術者に器として負の思念を注がれ、苦しんでいたのだ。
 メルはチタの背から降りてゆくと、器として利用された哀れな獣の魂に、輪廻の輪に戻れるよう小瓶から塩を撒いて、ささやかな祈りを捧げた。

「ヂウ~……」
「チタ、ありがとね」
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