助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 ずいぶん柔らかい親愛の響きでラルドリスはメルを呼んでくれた。
 本当は自分を置いて行った文句でも言ってやるつもりだったのに……その顔が何故だかとても眩しくて、頬に血が上がる。
 返す声も上擦り、平静さを保てていないのを自覚したメルはゆっくりと近寄ると、上目で彼を仰いだ。

「この場面、お前無しでは切り抜けられなかったな。礼を言う」
「い、いえ……チタも頑張ってくれましたので」
「謙遜はいい。駆けつけてくれたこと、本当に嬉しく思っている。その……このまま俺たちに付いて来てくれると、そう思っていいのか?」

 ラルドリスの気遣わしげな瞳を見て、メルは心配ないと頷く。

「はい。事情については後でお話します、私とティーラという人にあったことは、すべて……。夢の中で祖母が言ってくれたんです。あなたを手伝ってあげなさいって」
「そうか……。なら今しばらく頼りにさせてもらう」

 ゆったりと近付いてきたラルドリスは、メルの身体をそっと抱いた。
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