助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「あ、あの……?」
「やはり疲れるな、戦いなんて……。少しの間でいい、こうさせていてくれ」
「……はい」

 驚きつつも不快さは感じず、メルも彼の背中に手を回し、あやすように背中を撫でてやった。目を閉じると額から生きている音が伝わり、彼女も穏やかな気分になる。
 しかし心地よいひと時を、「お~い」と間の抜けたような一声が遮る。

「すみませんね、お疲れのところ。そろそろ起こしていただけると助かります……この通り、動けませんで」
 
 いかほどそうしていたのだろうか。近くからそんな声が聞こえ、振り向くと土壁に背を付けて苦笑いをするシーベルの姿があった。 しばし眼中になかったシーベルの笑顔にふたりはばっと体を離す。

「っと、すまんすまん」
「すみません!」
「いえいえ、よく来てくださいました、メル殿……。これは殿下、一生頭が上がりませんな」
「……簡単ではないが、借りはちゃんと返すさ。それより早くここを離れなければな」
< 200 / 374 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop