助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 未だその記憶に触れるのがつらく、押し黙ってしまったメルに対し……ラルドリスはその前に進み出ると、だらりと下がった両手を取り上げた。

「メル……お前はティーラを、どうしたい?」

 俯くメルにラルドリスは語りかけ、静かに答えを待った。その優しさとほのかに伝わる熱がメルを奮い立たせ、彼女は気持ちを整理するようにぽつぽつと胸の内を吐き出した。

「私は……あの時本当に怖い思いをしました。誰も助けてくれず、見ず知らずの人に連れて行かれた森の奥でひとり、獣に食われて死ねと、取り残されて……。でも、それについて復讐したいとか、あの人たちが悔い改めて欲しいとか、そういうことはもう、思わないんです。ただ……姉が今あなたたちを陥れ、罪を重ねようとしているのなら、それは……止めないとって……」
「……うん。わかった」

 ラルドリスはそっとメルの頭に手をやり、優しく元気づけるように叩いた。
 思いやり深いその仕草に、ボルドフはしゃがみこむと、シーベルに向かって囁いた。

『卿、あのおふたりは一体どういうご関係で? 殿下があそこまで親しくされるなど……まさか』
『さあてね、ご友人同士だとおっしゃってますが……現状は(・・・)。若者の交友関係に大人が口を挟むのは、野暮じゃありませんかね?』
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