助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
 足を止めじっと考えたラルドリスは、景気づけるように自分の頬をぴしゃりと叩き、先程より清々しい表情で前を向く。切り替えが早いのは、彼のいいところだ。

「沈んでいる暇がもったいないな、俺もそれが知りたい……。よし、ボルドフ! 母の元へ案内を頼む! 俺の帰還を知らせ、安心させてやりたいからな」
「ならば、こちらへ。今のあなたの姿を見ればお母上もお喜びになられましょう」

 足取りが軽くなったラルドリスを見て口元を綻ばせるメルに、後ろに控えていたシーベルが礼を言った。

「ふふ、さすがはメル殿。もはやラルドリス様の扱いではあなたに敵いませんな」
「む……人を猛獣使いみたいに言うの、やめてくれません?」
「お前ら、なにをこそこそやってるんだか。特にメル、お前も母上に紹介するんだからちゃんとしろよ」
「私もですかっ――!?」

 ラルドリスがいきなりそんなことを言うものだから、他愛のない軽口が悲鳴にとって代わる。その恥ずかしがる姿が妙に笑いを誘い、これから難題に向かう一行の肩を大いに軽くした。
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