助けた王子に妃へと望まれた魔女ですけれど、自然が恋しいので森に帰りますね
「い、いえ……そうではなくて」
「……? 疲れでもしたら言えよ? お前の代わりなど、誰にも務まらんのだから」
「は、はい」

 彼の気遣いは嬉しくも、最近距離が近いと、戸惑いを感じてしまうようになった。
 彼の身辺を守るひとりとして堂々としていればいいものなのに、恥ずかしいような浮ついたような……今まで感じたことの無い感情が、たまに表に出てきてしまう……!

(ちょっと、しっかりしてよ……私)

 それは、祖母に対して感じていた親愛の気持ちとよく似たものの気がしなくもない。だけれど、困るのはそれよりもどこか熱量が大きく、そして突然激しく湧き出て、彼女を叫び出したいような気持ちにさせることだ。

「おい、なにしてる。早く行くぞ」
「ちょっとだけ待って下さいっ……! すはー、すはー……」

 その正体も制御の仕方も分からず、メルはその場の開いた窓に駆け寄って、大きく深呼吸を繰り返す。
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